椰子の実

島崎藤村 作詩 田中寅二 作曲

名も知らぬ 遠き島より
流れ寄る 椰子の実一つ
故郷の岸を 離れて
なれはそも 波にいくつき

もとの木は 生(お)いや茂(しげ)れる
枝(えだ)はなお 影(かげ)をやなせる
われもまた 渚(なぎさ)を枕
孤身(ひとりみ)の 浮寝(うきね)の旅ぞ

実をとりて 胸にあつれば
新(あらた)なり 流離(りゅうり)の憂(うれい)
海の日の 沈むを見れば
激(たぎ)り落つ 異郷の涙
思いやる 八重の汐々(しおじお)
いずれの日にか 国に帰らん

歌詞の意味(現代語訳)
名前も知らない遠い島から
流れてきた椰子の実が一つ
故郷の岸をはなれて
おまえはいったい何ヶ月の間
波に流されてきたのか

椰子の実が成っていた元の木は
今も生いしげっているのだろうか
枝は今もなお
影をつくっているのだろうか
わたしもまた 波の音を枕に
一人寂しく旅している

椰子の実を胸に当てれば
さまよい歩く旅の憂いが身に染みる
海に沈む夕日を見れば
故郷を思い あふれ落ちる涙
遠い旅路に思いを馳せる
いつの日か故郷に帰ろう